Day 2
ループの4層
昨日、同じ賢さのAIでも「回し方」で結果が変わることを体験しました。 では、安心して任せられるようになるまでに、AIに何をどう渡せばよいのでしょうか。 今日はそれを4つの層に分けて考えます。イメージするのは、新人に仕事を任せる場面です。
今日のゴール
- 4つの層「指示・文脈・作業環境・ループ」を順に言えるようになる
- 「下の層の不足は、上の層では補えない」を例で説明できるようになる
- 自分のいつものAIの頼み方が、どの層まで渡せているか診断する
まずは体験
経費チェックAIをもう一度雇います。申請は昨日と同じ6件、見つけるべき問題は3件 (会食の上限超過・90円の金額ずれ・規定で判断できない深夜タクシー)。 ただし今日は、任せ方を1段階ずつ変えます。「層を足す」を押すたびに、AIに渡すものが1枚増えます。 結果がどう変わるか見てください。
何が起きたのか
層が1枚増えるたびに、できるようになったことを振り返ります。
- 指示だけ: AIは世間の相場で判定するしかなかった。頑張っていないのではなく、あなたの会社のルールを知る手段がない。
- 文脈を渡す: 規定を知り、上限超過を見つけた。しかし規定を「知っている」ことと、レシートと「照合できる」ことは別問題。
- 作業環境を整える: 台帳と照合できるようになり、90円のずれを発見。同時に、押せるボタンを3つに絞ったので、間違えても被害は限定的。
- ループを与える: 「全件終わるまで」という完了条件があるから、中断しても残りに気づいて再開できた。
4つの層
| 層 | 新人にたとえると | 経費チェックAIでは |
|---|---|---|
| 指示(プロンプト) | 口頭のお願い | 「チェックしておいて」 |
| 文脈(コンテキスト) | 机に置いておく資料 | 経費規定・過去の判定例 |
| 作業環境(ハーネス) | 道具と権限の整備 | 台帳への接続・押せるボタンは3つだけ |
| ループ | 仕事の回し方の取り決め | 全件終わるまで回して、報告して止まる |
ここから、覚えておきたい原則が2つ出てきます。
原則1: 下の層の不足は、上の層では補えない。 規定を知らないAI(文脈の不足)を、どれだけ丁寧に回しても(ループの工夫)、規定違反は見つかりません。 AIの答えに不満があるとき、私たちはつい指示の言い回しばかり直したくなりますが、 足りないのはたいてい下の層、つまり渡していない資料や、確かめる道具のほうです。
原則2: 作業環境は「できることを増やす」と同時に「できることを絞る」。 台帳への接続は能力を増やす整備です。一方「押せるボタンは3つだけ」は制限する整備です。 勝手にお金を動かす・記録を消すといった操作は、そもそもできないようにしておく。 間違えることを前提に、間違えても被害が小さい場所で働いてもらう。これが作業環境の発想です。
昨日の言い方を借りれば、Day1は「賢さではなく回し方」でした。 今日はその手前、「賢さではなく、渡すもの」です。
チャットしか使わなくても、2層は今日から変えられる
4層のうち、指示と文脈は、いつものチャット画面だけで改善できます。 規定・過去の例・判断基準を貼り付けてから頼むだけで、AIの判定根拠は「世間の相場」から「あなたの会社のルール」に変わります。 作業環境とループは道具の力を借りる領域で、Day6で実物を見ます。
今日のまとめ
- AIに渡すものは「指示・文脈・作業環境・ループ」の4層で考える
- 下の層の不足は、上の層では補えない。指示の言い回しより先に、渡す資料と確かめる道具を疑う
- 作業環境は、できることを増やすと同時に絞る。間違えても被害が小さい場所で働いてもらう
ミニ課題(5〜10分)
- 昨日選んだ自分の仕事について、いつものAIへの頼み方が4層のどこまで渡せているか、表に印をつけてください。 多くの場合、指示だけ、あるいは指示+わずかな文脈で止まっているはずです。
- その仕事の「文脈」にあたるものを3つ書き出します。 規定・マニュアル・過去の完成例・NG例・判断基準表など、新人の机に置いておく資料を思い浮かべてください。
- (ハンズオン)昨日と同じ依頼を、書き出した文脈を貼り付けてから頼み直してみてください。 答えの根拠がどう変わったかを見比べます。変わらなければ、それは文脈ではなく別の層が足りないサインです。