Day 5

人間はどこに立つか

読了+体験+課題: 20〜30分

完了条件、部品、ブレーキ。仕組みの設計はひととおり出そろいました。 最後に残った設計対象は、あなた自身の立ち位置です。 AIの仕事に対して、人間はどこに立つのか。選択肢は3つあります。

今日のゴール

まずは体験

経費チェックAIが月100件を処理する職場を想像してください。 同じ1ヶ月を、3つの立ち方で過ごすとどうなるか。1つずつ確かめてください。

体験: 同じ1ヶ月、3つの立ち方

立ち方あなたの時間事故起きたこと

3つの立ち方

立ち方人間の役割弱点
輪の中(in the loop)すべての結果を毎回チェックするあなたが上限になる。休むと止まる
輪の外(out of the loop)任せきり。報告も見ない事故に月末まで気づけない。信頼ごと壊れる
輪の上(on the loop)仕組みを設計・監視し、例外に答える設計の腕が要る(この7日間で学んでいるもの)

目指す場所は輪の上です。そして輪の上の仕事の中身は、実はこの4日間で全部やってきました。 完了条件を決める(Day1・4)。渡すものを整える(Day2)。部品と記憶を用意する(Day3)。 ブレーキを付ける(Day4)。そして相談に答え、報告を読む。 輪の上に立つとは、特別な技術ではなく、この設計と例外対応に自分の時間を使うということです。

報告を読む技術: 尋問

輪の上に残る大事な仕事が「報告を読む」です。ここには専用の技術があります。 報告を鵜呑みにせず、質問を投げてAI自身に説明させる。これを尋問と呼びます。型は3つです。

重要なのは、尋問するのに実装の細部を知っている必要はない、ということです。 Day1の課題で「この答えのどこを確かめれば間違いに気づけますか?」と聞いたのを覚えているでしょうか。あれが尋問の第一歩でした。 AIのほうが細部を知っています。それでも尋問が機能するのは、あなたには規範モデルがあるからです。 この職場では何が大事か、過去に何で失敗したか、どこまでなら許容できるか。 理想像・価値基準・過去の判断の蓄積。それはAIの側にはなく、あなたにしかありません。 尋問とは、AIが持つ細部を、あなたが持つ規範モデルに照らして検品する行為です。

ループは、使う人の違いを知らない

同じループを作っても、深く理解して速く進める人と、理解を避けるために使う人で、結果は正反対になります。 ループはその違いを知りません。設計者は知っている必要があります。 輪の上に立つことと、輪の外に落ちることの差は、道具ではなく、この一点です。 報告を読み、尋問し、規範モデルを更新し続ける人だけが、輪の上に居続けられます。

「理解を避けるために使う」と何が起きるかにも、名前があります。理解負債(comprehension debt)。 AIが作った成果物と、あなたが理解している中身との差のことです。 借金と同じで、少しなら問題になりません。怖いのは速度です。 ループは速く回るほど成果物を速く増やすので、理解を後回しにすると、差もループの速さで開いていきます。 気づいたときには、自分の仕事の中身を自分で説明できなくなっている。それが輪の外に落ちた状態です。

返済の手段は、新しく学ぶ必要がありません。今日すでに出てきました。 報告を尋問して読む。理由まで説明させる。大事な部分は自分の目で見る。 尋問とは点検であると同時に、理解負債をその場で返す行為でもあるのです。

今日のまとめ

ミニ課題(5〜10分)

  1. 自分の仕事の報告(AIからでも人からでもかまいません)に対する尋問の質問を、3つの型で1つずつ書いてください。 根拠を問う質問、必要性を問う質問、前提を問う質問です。
  2. (ハンズオン)いつものチャットAIの直近の答えに、その3つの質問をぶつけてみてください。 答えがどう変わるか、どこで詰まるかを観察します。 詰まった場所が、あなたの仕組みで観測が足りていない場所です。

次回

Day6「本物を見る」。ここまでは模擬体験でした。次は、実際に毎日動いているループと、 失敗から立ち直るループの記録を、注釈つきで読みます。5日分の概念が実物のどこに現れるかを確かめます。