Day 7

自分の最初のループを設計する

読了+実演+修了制作: 30〜40分

最終日です。今日の中心は、新しい概念ではなく、この6日間で学んだことを1枚の文書に束ねる作業です。 名前はループ契約書(loop contract)。 AIに仕事を任せるときの取り決めを、6つの項目で書き切ったものです。 これを書き上げたら、このコースは修了です。

今日のゴール

ループ契約書の6項目

6項目のうち5つは、すでに学んだものの言い換えです。新しいのは「報告」だけ。 よい報告の条件は、Day5でやったとおり「尋問に耐えられること」です。

項目問い学んだ日
起動条件 (TRIGGER)いつ・何をきっかけに始まる?Day3の鼓動
担当範囲 (SCOPE)何を触ってよく、何を触ってはいけない?Day2の作業環境
やること (ACTION)1回のループで何をする?Day1の行動
予算 (BUDGET)件数・時間・お金の上限は?Day4の非常ブレーキ
停止条件 (STOP)何がどうなったら止まる? 迷ったら誰に相談?Day1・Day4
報告 (REPORT)誰に・いつ・何を知らせる?Day5の輪の上

題材の選び方: 4つの条件

契約書を書く前に、仕事の選び方をひとつだけ。どんな仕事でもループに向くわけではありません。 次の4つがそろっているかを確かめてください。

条件確かめ方
1. 繰り返し発生する週1回以上が目安。一度きりの仕事に仕組み作りは割に合わない
2. 機械的に判定できる終わったかどうかを、規定や台帳と照合して決められる。「美しいか」のような主観の判断はループにしにくい
3. 準備の手間に見合う文脈をそろえ、契約書を書き、数週間観察する。その手間より節約のほうが大きいか
4. AIに道具が届いている必要な資料・データ・確かめる手段を、AIに渡せるか(Day2の作業環境)

全部そろっていなければ、そろっている仕事に替えるか、そろうまで担当範囲を狭めてください。 経費チェックAIが7日間の題材でいられたのは、毎月発生し、規定と照合でき、件数が手間に見合い、規定と台帳を渡せる。4つがそろっていたからです。

修了制作: 契約書を書く

下のフォームに、あなたの仕事を1つ選んで書き込んでください(Day1のミニ課題で選んだ仕事を、上の4条件に通してから使ってください)。 迷ったら「例を読み込む」で経費チェックAIの完成例を表示し、自分の仕事の言葉に書き換えていくのが早道です。 入力はこの端末のブラウザにだけ保存され、どこにも送信されません。

ループ契約書ビルダー

書いた契約書は、こう渡す

契約書ができたら、次の疑問は「これを、どうAIに伝えるのか」でしょう。 答えは拍子抜けするほど簡単です。コピペで渡せばいい。 下のリプレイは、いま書いたような契約書をチャットAIに貼り付けて、最初の1周を回したところです。

実演: 契約書を渡して1周する

チャットAIでも、ターミナルで動くAIエージェントでも、渡し方は同じ「貼って、始めてもらう」です。 エージェント(Claude Code など)の場合はもう一歩進めて、作業フォルダに 「CONTRACT.md」のような名前のファイルとして契約書を置いておけます。 毎回貼り付けなくても「契約書を読んでから始めてください」の一言で済む。 お気づきでしょうか。契約書をファイルとして置いておくこの形は、Day3の手順書そのものです。

「毎日12:00に自動で」の正体: 鼓動はどこに住むか

実際に始めようとすると、もうひとつ必ずぶつかる疑問があります。 「起動条件に『毎日12:00』と書いたけれど、私のパソコンを閉じていたら動かないのでは?」

そのとおり、動きません。ノートパソコンは閉じれば眠ります。 鼓動が自動で打ち続けるには、起き続けているコンピュータが必要です。 Day6のリプレイ1に種明かしをもうひとつ足すと、あの学習ループが毎日12:00に動けるのは、 閉じられることのない小さなコンピュータ(サーバ)の上に住んでいるからです。

鼓動の住まい特徴向いている時期
あなた自身(手動で始める)準備ゼロ。今日から始められる最初の数週間。まずはここから
起き続けているコンピュータ(常時稼働のPC・小さなサーバ)24時間動くが、用意と管理が要る毎日型ループの本格運用
クラウドのスケジュール実行(サービスを借りる)自分のPCと独立して動く道具に慣れてきたら

ただし、順番が大事です。鼓動の自動化は、いちばん最後。 まずは鼓動だけあなたが担う半自動ループで数週間回してください。 毎朝コーヒーを淹れたら、契約書つきで1周頼む。それだけで、あなたの仕事は十分変わります。 価値とブレーキの効きを確かめてから、起き続けているコンピュータへ引っ越して全自動ループにする。 Day4を思い出してください。自動で回るものは、自動で暴走もします。 手動で信頼できない仕事は、自動化しても信頼できません。自動化で上がるのは、失敗の速度だけです。 信頼は、ループがまだ手元にあるうちに作るものです。

小さく始める: 最初のループは「読むだけ」でいい

書き上げた契約書を、明日から全部自動で動かす必要はありません。むしろ最初のループは、思い切って小さくしてください。おすすめの形はこれです。

最初のループの推奨形

「毎朝、未処理の一覧を読んで、気になるものトップ3を理由つきで報告する」。この程度で十分です。 前の節の言葉と合わせるなら、半自動ループ×読むだけ。二重に安全な形から始めます。 変更ができないループは、Day4の言葉でいえば暴走しても事故になりません。 そして読むだけのループでも、鼓動・記憶・報告の練習には十分なります。 信頼は、小さいループを何週間か観察してから、担当範囲を1段ずつ広げて積み上げるものです。

数週間後の健康診断: 採用率

小さく始めたループが数週間回ったら、続けるか、広げるか、直すかを決める番です。 このとき見る数字を間違えないでください。何周回したか、何件処理したか、どれだけ作ったか。作業量はどれも、あまり当てになりません。 見るべきは採用率(acceptance rate)。AIの提案のうち、あなたが採用した割合です。

採用率 = あなたが採用した数 ÷ AIが提案した数

採用率が半分を下回っているなら、そのループはまだあなたの時間を節約していません。 提案の半分以上を差し戻すということは、結局あなたが重い点検をしているということだからです。 打ち手は5つ。どれもすでに学んだ場所にあります。

採用率を数えるのに道具は要りません。1周ごとに、採用したか差し戻したかをひとこと書き残すだけです。 番外編で紹介するループ日誌のメモ欄は、この置き場としてそのまま使えます。

次の一歩

このコースの模擬体験でAIが動かしていたような仕組みは、実際の道具で作れます。 たとえば、Day6のリプレイ2で見た作業ループを動かしていたのは、 ターミナルで動くAIエージェントと呼ばれる種類の道具です(Claude Code など。 チャットのAIと同じ会社が出している、ファイルやツールを扱えるAIです)。 具体的な導入手順はすぐ変わるので、ここには書きません。公式ドキュメントが最新です。 道具を触り始めたら、このコースで学んだ言葉、つまり完了条件・観測・停止条件・担当範囲が、そのまま設計図として通用します。

7日間のまとめ

最後に、Day5の一文をもう一度置いておきます。 同じループを作っても、深く理解して速く進める人と、理解を避けるために使う人で、結果は正反対になります。 ループはその違いを知りません。設計者であるあなたは、知っています。 7日間、おつかれさまでした。

付録: 用語対照表

卒業後に英語の記事やドキュメントを読むときの橋です。この教材の言葉と、世間で使われる言葉の対応表です。

この教材の言葉原語一言でいうと
ループloop基本サイクルを停止条件まで繰り返す仕組み
ループエンジニアリングloop engineeringループ全体(観測・停止・相談を含む)を設計する実践
基本サイクルagent loop目的→行動→観測→修正→停止の5段階
観測observation / feedback行動の結果を確かめて得る情報。失敗も含む
完了条件done condition終わったと客観的に判定できる条件
停止条件stop conditionループを止める条件の総称
暴走runaway終わりの定義がないまま回り続ける状態
偽完了premature completion完了条件を満たさないまま「終わった」と宣言して止まる状態
非常ブレーキhard stop回数上限・無進捗検出・予算上限の3種
人間への相談escalation判断できない案件を人間に引き渡すこと
指示promptAIへの1回の依頼文
文脈contextAIが前提として見る情報環境
作業環境harness道具・ルール・チェックを整えた環境
鼓動automationsループを自動で動かす起動の仕組み
個室worktree複数のAIが衝突しないための隔離
手順書skill毎回説明しないための固定した知識・手順
接続plugin / connector外部の道具やデータへのつなぎ込み
検証役verifier / sub-agent作る役と別に点検する役
記憶memory / state会話の外に残す進捗・判断・記録
ノーチェックループopen loop検証なしで回るループ。デモ用
チェックつきループclosed loop1回ごとに検証が入るループ。実務の基本形
レビュー役つきループreview loop並走する検証役が指摘を返すループ
輪の中human in the loop人間が毎回チェックする働き方
輪の上human on the loop人間が仕組みを設計・監視する働き方
輪の外human out of the loop任せきりの状態
尋問interrogationAIに質問して自己説明させる点検法
規範モデルnormative model人間だけが持つ理想像・価値基準・過去の判断
理解負債comprehension debtAIの成果物と人間の理解の差。速いループほど速く積み上がる
ループ契約書loop contract6項目でループを定義する文書
採用率acceptance rateAIの提案のうち人間が採用した割合。ループの健康診断指標